幸福とは何か気づく。世界三大幸福論(3)ラッセルの幸福論より

幸福学入門より

あなたは幸福な人生を送りたいと思ったことはありませんか? しかし、そもそも「幸福」とは何でしょうか。どのような状態になれば、人は「幸せだ」と感じられるのでしょうか。忙しい日々の中で、こうした問いをじっくり考える機会は少ないかもしれません。

本記事では、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルの『幸福論』を紐解き、より充実した人生を築くためのヒントを探ります。ラッセルは、幸福は偶然の産物ではなく、意識的な努力によって得られるものだと考えました。そして、競争や嫉妬、不安といった不幸の要因を取り除き、外界への関心を広げることで、人はより満たされた人生を送れると説いています。

「幸福な人は、自分ではなく、世界に関心を向ける」——ラッセルのこの言葉は、幸せを得るための重要な指針となるでしょう。この記事では、幸福を妨げる要因と、それを克服するための具体的な方法を解説します。日々の暮らしの中で幸福を意識し、充実した人生へと近づくヒントを得られるはずです。あなたの人生をより豊かにするきっかけになれば嬉しいです。

出典:
幸福論(ラッセル) 岩波文庫、安藤貞雄訳
ラッセル「幸福論」 NHK100分で名著 小川仁志
漫画でわかる ラッセルの「幸福論」の読み方(まんがでわかるシリーズ) 小川仁志著 前山三都里イラスト
60代からの幸福をつかむ極意-「20世紀最高の知性」ラッセルに学べ  中公新書ラクレ 760 斉藤孝著

三大幸福論とは?

「三大幸福論」と呼ばれる幸福論があります。著者は、生誕順に以下の三人です。

  • カール・ヒルティ(1833〜1909)
  • アラン(1868〜1925)
  • バートランド・ラッセル(1872〜1970)

それぞれの哲学者は異なる視点から幸福を論じています。

  • ヒルティは、幸福を得るためには 働くこと、人々を愛すること、人格を磨くこと が重要であると説きました。また、不幸は幸福になるための糧であるという考え方も示しました。
  • アランは、心の中から湧いてくるネガティブな感情「情念」を振り払い、幸福になる努力をし続けることが幸福につながると説きました。「幸せだから笑うのではない。笑うから幸せになるのだ」という言葉は有名です。

では、ラッセルは幸福についてどのように考えていたのか、みていきましょう。

ラッセルの華々しくも波乱に満ちた人生

バートランド・ラッセルは1872年にイギリスで生まれた哲学者・数学者です。祖父は元イギリス首相ジョン・ラッセルであり、貴族の家系に生まれました。しかし、幼い頃に両親を亡くし、厳格な祖母のもとで育てられたことで、精神的な苦悩を抱えながらも知性を磨いていきました。

数学の分野でも卓越した才能を持ち、39歳のときに『数学原理』を出版し、論理学と数学の発展に貢献しました。そして、58歳(1930年)で著した『幸福論』では、幸福を得るための実践的な哲学を提示し、多くの人々に影響を与えました。

さらに、多くの書籍を出版し、78歳(1950年)にはノーベル文学賞を受賞。86歳(1958年)には「ラッセル=アインシュタイン宣言」を発表し、核兵器廃絶と科学技術の平和利用を訴えるなど、社会活動家としても精力的に活動しました。

華々しい業績の裏には、波乱に満ちた人生がありました。2度の投獄、4度の結婚を経験し、個人的にも激動の時代を生き抜いたラッセル。彼の哲学は、こうした人生経験を通じて深みを増し、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

不幸の原因——ラッセルの視点から考える

バートランド・ラッセルは『幸福論』の中で、不幸の原因と幸福をもたらす要因について論じています。彼は、健康で食べるのに困らない一般の人々が不幸に陥る理由として、「自己没頭」を挙げました。自己没頭とは、自分自身に過度に意識を向けすぎる状態を指し、以下の3つの形態に分類されます。

  1. 自分を卑下する(ラッセルはこれを「罪人」と呼びました) 自己評価が低すぎると、不必要な罪悪感を抱え、幸福から遠ざかります。
  2. 自分を過剰に賛美する(ナルシスト) 自己陶酔に陥ると、他者との関係が歪み、自己中心的な思考が不幸を招きます。
  3. 過度の権力を求める(誇大妄想) 権力への執着が強すぎると、他者との対立が生じ、内面的な安らぎを得られません。

さらに、ラッセルは次のような思考も不幸の原因になると考えました。

  1. 他人の評価を気にしすぎる、他人と比較する 他者の評価に依存すると、自分の価値を外部要因で測るようになり、真の幸福を見失います。

ラッセルの幸福論の基本的な考え方は、「幸福になるためには、まず不幸の原因を取り除くことが重要である」というものです。これは非常にわかりやすく、実践的な視点といえるでしょう。

幸福をもたらすもの——ラッセルの視点から考える

バートランド・ラッセルは『幸福論』の中で、不幸の原因だけでなく、幸福を得るための要素についても論じています。幸福をもたらすものとして、彼は以下の3つの要素を挙げています。

私心のない趣味を持つ

「私心のない趣味」とは、その目的や実利を考えず、純粋に楽しめるものです。 情熱を持って取り組める趣味があると、満足感や充実感を得られ、日々の生活に喜びをもたらします。何かを追求する喜びは、外的な評価を超えて、内面的な幸福を育む鍵となります。

周囲の人たちとの関係

外交的であり、社会とのつながりを持つことが幸福をもたらします。周囲の人への愛情や共感を持ち、お互いの幸福を願うことが重要です。

  • 周囲の幸福を願うことで、自分の幸福も深まる。
  • 他人の幸福のために自分を犠牲にしすぎないことも大切。自分が幸福でいることで、周囲にも良い影響を与えられる。

幸福は個人の努力だけでなく、他者との関係性によっても育まれます。周囲の人々と喜びを分かち合い、良好な人間関係を築くことが、安定した幸福につながるのです。

ありのままの自分を受け入れる

自分の人生を肯定し、ありのままに受け入れることが幸福の鍵です。 変化に柔軟に対応しながら、自分の本当の気持ちを大切にすることで、人生の価値を実感できるでしょう。

  • 自分の好きなことを探し、それに没頭することで、人生の充実度が高まる。
  • 「この世は生きる価値がある」と信じることが、幸福を築く土台となる。

ただし、自己受容を誤解し、答えの出ない問いに囚われすぎるのは避けた方が良いでしょう。「人生とは何か?」「自分は何のために生まれたのか?」といった抽象的な問いにとらわれすぎると、かえって幸福から遠ざかることもあります。

幸福になるための具体的行動

バートランド・ラッセルは『幸福論』の中で、幸福を得るためには積極的な努力が必要だと説いています。幸福をもたらす要素として、以下の4つが挙げられます。

仕事を持つこと

退屈は不幸の一因であり、たとえ仕事が単調でも、それを持つことで退屈を防げます。しかし、より大きな幸福を得るためには、自分の技術を磨き、それを活かすことが重要です。

  • 仕事と人生の目的が一致していると、幸福感が高まる
  • 自分の思い描いた仕事を実現し、その成果を感じることは、幸福の重要な要素となる

趣味を楽しむ

趣味を持つことは、幸福の源泉の一つです。特に、目的を持たない純粋な趣味は、精神的な充足をもたらします。 また、幸福を得るためには努力が必要ですが、趣味の中で自然に努力できるものを見つけることで、楽しみながら成長できるでしょう。

努力とあきらめのバランスをとる

努力は幸福への道ですが、それが自己成長につながったり、誰かの役に立つ結果を生むことが理想です。

  • 努力が自己研鑽や他者への貢献につながると、幸福感が増す
  • しかし、自分の力が及ばないことに執着しすぎると、不幸を招く。適切にあきらめ、関心を持たないことも重要

視野を広く持つ

狭い世界に閉じこもると、日常の小さな問題が大きく感じられ、不必要な苦しみを招いてしまいます。

自分の悩みを俯瞰することで、幸福を感じやすくなる

異文化に触れる、幅広いジャンルの本を読む、新しい人々と交流することで、視野を広げ、問題を相対化しやすくなる。

まとめ——ラッセルの幸福論から学ぶ幸福のあり方

バートランド・ラッセルの『幸福論』では、幸福は偶然訪れるものではなく、意識的な選択と行動によって築かれるものだと説かれています。幸福を得るためには、不幸の原因を取り除き、積極的に幸福を育てることが重要です。

ラッセルの幸福論に基づいて、幸福を得るための方法を、以下のようにまとめてみました。

  1. 自己没頭から解放される 自分を卑下することや過剰に賛美すること、過度の権力欲を持つことは不幸の原因となる。他人との比較や評価に縛られず、外界に目を向けることが幸福への第一歩。
  2. 私心のない趣味を持つ 利益や目的を考えず、純粋に楽しめる趣味を持つことで、充実感を得られる。情熱を注げるものを見つけることが、幸福を育む鍵。
  3. 良好な人間関係を築く 社会とのつながりを持ち、愛情や共感を大切にすることが幸福につながる。他人の幸福を願いながらも、自分自身を犠牲にしすぎないバランスが重要。
  4. ありのままの自分を受け入れる 自分の人生を肯定し、変化に柔軟に対応する。幸福は生きがいを信じ、この世の価値を見出すことで育まれる。
  5. 充実した仕事を持つ 退屈は不幸につながるため、意義のある仕事を見つけることが重要。技術を磨き、人生の目的と一致した仕事に取り組めれば、より大きな満足感を得られる。
  6. 努力とあきらめのバランスをとる 自分の力が及ぶ範囲で努力し、その努力が自己成長や他者への貢献につながるようにする。一方で、自分ではどうにもならないことに執着せず、適度に手放すことも大切。
  7. 広い視野を持つ 狭い世界に閉じこもると、些細な問題が大きく感じられる。異文化に触れ、多様な知識を吸収し、広い視点を持つことで、人生の悩みを軽減できる。

ラッセルの幸福論は、単なる理論ではなく、実生活に活かせる知恵に満ちています。幸福とは待つものではなく、自ら育て、築いていくもの。日々の選択と行動が、より充実した人生への道を開くのです。

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